
親の食事や排泄に手助けが必要になり、転倒への心配も増えてきた。それでも「まだ自宅で介護できるのではないか」「施設を考えるのは早すぎないか」と迷うことがあります。
老人ホームへの入居時期に、すべての家庭へ共通する正解はありません。私が今振り返って思うのは、食事や排泄などの日常生活動作が低下してきたと感じたときが、入居を決める期限ではなく、相談と情報収集を始める時期だということです。
私は介護職として働きながら、母を約1年間自宅で介護し、最終的に老健への入所を決めました。
この記事では、その経験をもとに、在宅介護の限界を考える変化、介護者側の判断材料、相談先、施設の違いを整理します。
●この記事でわかること
- 老人ホームへの入居を考え始めるタイミング
- 在宅介護の限界を見極める本人側・介護者側の変化
- 入居を決める前に相談できる窓口
- 老人ホームと呼ばれる主な施設の違い
施設への入居をすぐに決めるためではなく、家族だけで抱え込む前に今後の選択肢を整理するための参考にしてください。
老人ホームへの入居を考え始めるのは、ADLの低下を感じたとき

老人ホームへの入居を考え始める目安は、介護を受ける本人のADLが下がってきたと感じたときだと、私は考えています。
ADLとは、食事、排泄、着替え、移動など、日常生活を送るために必要な動作のことです。母の場合も、食事や排泄など、これまで自分で行っていた身の回りのことが少しずつ難しくなってきました。
ただし、ADLが低下したら、すぐ老人ホームへ入居すべきだという意味ではありません。何も起きていないうちから具体的な入居時期を判断するのは難しく、私自身も、実際に母の状態が変化してからでなければ分かりませんでした。
大切なのは、ADLの低下を感じた段階を「入居を決める期限」ではなく、「相談と情報収集を始める時期」として考えることです。
厚生労働省も、仕事と介護を両立するためのポイントとして、介護保険の申請を早めに行うことや、ケアマネジャーへ相談することを案内しています。また、介護に直面する前から制度の概要や相談窓口を把握しておくことも事前準備として挙げています。厚生労働省「仕事と介護の両立ポイント」
食事や排泄などに変化が現れ、在宅生活への不安が具体的になってきたら、介護者が限界になる前に、どのような選択肢があるのかを調べ始める。そのくらいの捉え方でよいのではないかと思います。
在宅介護の限界を考える、本人側の変化

在宅介護を続けられるか考えるうえで、私が最も大きな変化だと感じたのは、母が身の回りのことを自力で行いにくくなったことでした。
介護度だけを見て「この段階になったら施設」と決めたわけではありません。毎日の暮らしの中で、これまでできていたことが難しくなり、家族による介助や見守りが増えてきたことが、在宅介護を見直すきっかけになりました。
食事や排泄を自力で行いにくくなった
母は次第に、自分だけでは食事をうまく取れなくなり、介助が必要になりました。
排泄にも変化がありました。それまでは自分でトイレへ行くことができ、失禁もほとんどありませんでしたが、次第にトイレへ行かなくなり、失禁することが増えていきました。
食事と排泄は生活の中で繰り返されます。母がそれらを自力で行いにくくなったことが、私にとって、在宅介護を続けるのが難しいと判断した最大の理由でした。
もちろん、食事や排泄の介助が必要になったら、誰でも施設入居を選ばなければならないわけではありません。利用できる介護サービスや家族の状況は、それぞれ異なります。ここで書いているのは、あくまで私と母の場合です。
転倒や見守りへの不安が増えてきた
母は以前にはほとんどなかった転倒も増えてきました。
食事や排泄の介助に加えて転倒が増えると、母を一人にしておくことへの不安も大きくなりました。ほぼ常に自宅で対応する必要がある状態へ近づき、これまでと同じ形で在宅介護を続けることが難しくなっていきました。
「これまでできていたことが難しくなった」「家族がそばにいなければ心配な時間が増えた」と感じたときは、在宅介護の方法を見直す一つの時期だと思います。
介護者の仕事や生活が続けられるかも判断材料になる

施設への入居を考えるときは、介護を受ける本人の状態だけでなく、介護する家族が仕事や生活を続けられるかも判断材料になると思います。
私の場合、母の介助や見守りが増え、ほぼ常に自宅で対応する必要が出てきました。一方で、生活費のために仕事を辞めることはできませんでした。
「本人の介護がまだできるか」だけでなく、「介護をしながら自分の暮らしを維持できるか」まで含めて考えなければ、在宅介護は続きません。
常に家にいる必要が出てくる
母が自分で身の回りのことを行えていた頃と、家族の介助が必要になってからでは、在宅介護の意味が変わりました。
介助が必要な場面が増えるほど、母を一人にして仕事へ行くことへの不安も大きくなります。しかし、私の職場では急に休むことが難しく、仕事を簡単に休んだり辞めたりできる状況ではありませんでした。
仕事を続けなければ生活できない一方で、母を自宅に残しておくことも心配になる。この二つを両立させることが現実的に難しくなったことも、施設入居を考える背景にありました。
家族に介護する意思があっても、仕事や収入、家を空けられる時間によって、在宅で対応できる範囲には限りがあります。
限界を自覚する余裕があるとは限らない
当時の私は、「もう限界だ」とはっきり考えていたわけではありません。
自分自身の老化も感じるなかで、仕事をしながら母の介護を続けることに必死でした。在宅介護がどのくらいきついのか、まだ続けられるのかを、落ち着いて考える余裕もなかったのだと思います。
少なくとも私の場合は、食事や排泄の介助、転倒への心配、仕事との両立の難しさが少しずつ重なっていきました。
介護者本人が「限界だ」と自覚するまで待つのではなく、生活を維持することが難しくなり始めた段階で、今後の選択肢を考える必要があるのだと思います。
私が母の老健入所を考え、決断するまで

母の施設入所は、何か一つの出来事だけで決めたわけではありません。2025年に入ってから母の状態が少しずつ変化し、自宅でできないことが増えていった先に、老健への入所がありました。
2025年初めから母のできないことが増えていった
2025年の年明け早々、母は転倒して額にけがをしました。その後は体調を崩し、入院手前の状態まで悪化しました。
この出来事だけを理由に施設入所を決めたわけではありません。ただ、転倒と体調悪化を境に、母の生活には以前とは違う変化が目立つようになりました。
必要な介助を続けるなかで、家族が支えなければならない範囲は広がっていきました。
最大の理由は食事と排泄の介助だった
在宅介護を続けることが難しいと判断した最大の理由は、母が食事や排泄など、身の回りのことを自力で行いにくくなったことです。
転倒が増えたことや仕事との両立も背景にはありましたが、毎日の食事と排泄に継続的な介助が必要になったことが、私の中では最も大きな理由でした。
必要なときに私が必ずそばにいられるとは限りません。この状態で在宅介護を続けるのは、現実的に難しいと判断するようになりました。
施設を具体的に考え、ケアマネジャーへ相談した
施設への入所を具体的に考え始めたのは、2025年11月初め頃でした。12月初め頃にはケアマネジャーへ母の状況を相談しました。
相談できる家族は姉だけでした。姉に状況を伝えると、最終的な判断を私に任せるという趣旨の返答がありました。そのため、ケアマネジャーの助言を受けながら、最後は私が判断しました。
母は認知症が進み、脳梗塞後の発語障害もあったため、施設入所について明確な意思を確認することはできませんでした。母がどこまで理解していたのかも分かりません。ただ、入所を明確に拒む様子はありませんでした。
地域には選べる施設が多くなく、ケアマネジャーの助言を受けて老健への入所を決めました。母が実際に老健へ入所したのは、2025年12月です。
限界になる前に相談と情報収集を始める

施設入居について迷い始めたら、入居するかどうかを決めていなくても、担当ケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談できます。
相談するときは、食事や排泄で難しくなったこと、転倒への不安、家族が家を空けられる時間、仕事との両立など、現在困っていることを具体的に伝えます。
担当ケアマネジャーへ現在の状況を伝える
すでに介護サービスを利用している場合は、まず担当ケアマネジャーへ相談します。
本人の状態だけでなく、介護する家族の状況も伝えることが大切です。「まだ何とか介護できているから」と困りごとを小さくせず、続けるのが難しくなっている部分も、そのまま相談してよいと思います。
厚生労働省も、仕事と介護を両立するためのポイントとして、介護保険の申請を早めに行うこと、要介護認定前から調整を始めること、ケアマネジャーへ相談することを挙げています。厚生労働省「仕事と介護の両立ポイント」
ケアマネジャーがいなければ地域包括支援センターへ相談する
担当ケアマネジャーがいない場合は、介護を受ける人が住んでいる地域の地域包括支援センターが相談先になります。
地域包括支援センターは、すべての市町村に設置されている介護の総合相談窓口です。保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどが相談に対応し、必要に応じてケアマネジャーの紹介も行っています。地域によっては名称が異なる場合があります。厚生労働省「中高年の活躍支援のご案内」
担当する地域包括支援センターが分からない場合は、市区町村の介護保険担当窓口へ確認します。
相談することと入居を決めることは別に考える
相談の段階では、在宅で利用できるサービスがほかにあるのか、どのような施設が候補になるのか、家族として何を準備すればよいのかを整理します。
ADLが下がってきたと感じたら、まず現在の状況を伝え、利用できる選択肢を知る。入居するかどうかは、その情報を得たあとで考えることができます。
「老人ホーム」と呼ばれる施設は役割がそれぞれ違う

「老人ホーム」という言葉は、役割の異なるさまざまな施設や住まいを指して使われています。
有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設では、法律上の位置づけや役割が異なります。現在の状態や入居の目的に合っているかを確認する必要があります。
有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅
厚生労働省によると、有料老人ホームは老人福祉法に基づいて届け出る施設です。一方、サービス付き高齢者向け住宅は、高齢者の居住安定確保に関する法律に基づいて登録された高齢者向けの賃貸住宅です。厚生労働省「高齢者向け住まいについて」
施設を検討するときは、現在の状態で入居できるか、必要な介助を受けられるか、状態が変化しても暮らし続けられるか、費用に何が含まれるかを個別に確認します。
常時介護が必要な人を支える特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームは、自宅での生活が困難な要介護者が入所し、入浴、排泄、食事などの介護や、日常生活上の支援を受ける施設です。静岡県「特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)」
実際の入所条件や入所できる時期は、本人の状態や施設によって確認する必要があります。
私の母が入所した介護老人保健施設
私の母が入所したのは、介護老人保健施設、いわゆる老健でした。
老健は、病状が安定期にあり、入院治療までは必要ないものの、リハビリテーションや看護・介護が必要な要介護者に対して、医学的管理下の介護、機能訓練、必要な医療、日常生活上の世話などを提供する施設です。和歌山県「介護老人保健施設」
私の住んでいる地域では施設の選択肢が多くありませんでした。ケアマネジャーへ相談し、その助言を受けて母の老健入所を決めました。
これは、老健がすべての家庭に向いているという意味ではありません。私と母にとって、その時点で現実的に選べる施設が老健だったということです。
| 種類 | 主な位置づけ |
|---|---|
| 有料老人ホーム | 老人福祉法に基づいて届け出る高齢者向け施設 |
| サービス付き高齢者向け住宅 | 法律に基づいて登録された高齢者向け賃貸住宅 |
| 特別養護老人ホーム | 自宅での生活が難しい要介護者へ介護や生活支援を提供する施設 |
| 介護老人保健施設 | 病状が安定した要介護者へ医学的管理下の介護やリハビリテーションなどを提供する施設 |
施設を選ぶときは、名前だけでなく、本人が必要としている介護と施設の役割が合っているかを確認します。
入居のタイミングを判断するために確認したいこと

老人ホームへの入居を考えるタイミングは、介護度や年齢など、一つの条件だけでは決められません。
相談を始める段階では、次の点を整理します。
1.食事や排泄などを自力で行えているか
これまで一人でできていた食事、排泄、着替え、移動などが難しくなっていないかを確認します。私の場合は、母が食事や排泄を自力で行いにくくなったことが、在宅介護を見直す最大の理由でした。
2.一人で過ごすことへの不安が増えていないか
転倒が増えた、家族がいない時間が心配になったなど、安全面の変化を確認します。転倒したことだけで入居が決まるわけではないため、在宅で対応できる方法も含めて相談します。
3.在宅サービスを調整しても生活を支えられるか
現在の介護サービスを見直すことで在宅生活を続けられるのか、施設を含めて考えたほうがよいのかを、家族だけで結論を出さずに整理します。
4.介護者が仕事や生活を維持できるか
介護者が仕事や日常生活を続けられるかも確認します。介護者が明確に「限界だ」と感じるまで待つ必要はありません。
5.本人に必要な支援と施設の役割が合っているか
入居できるかだけでなく、本人に必要な介護や生活支援を受けられる施設かを確認します。
6.本人の希望をどこまで確認できるか
本人が施設での生活をどう考えているか、可能な範囲で確認します。
私の母は認知症が進み、脳梗塞後の発語障害もあったため、施設入所について明確な意思を確認できませんでした。拒む様子はありませんでしたが、それを「母も入所を望んでいた」と置き換えることはできません。
これらのうち、いくつ当てはまったら入居すべきという基準はありません。複数の不安が重なってきたら、家族だけで抱えず、今後について相談する段階に来ていると考えます。
老人ホームへの入居時期についてよくある質問
Q:老人ホームへの入居は何歳から考えるべきですか?
A:年齢だけで入居時期を決めることはできません。食事や排泄などの日常生活動作、一人で過ごすことへの不安、介護する家族が仕事や生活を続けられるかを合わせて考えます。
Q:どのような状態になったら施設へ相談すればよいですか?
A:これまで自分で行っていた食事や排泄が難しくなった、転倒が増えた、家族がいない時間への心配が大きくなったときなどが相談を考える目安です。ただし、その時点で施設入居が必要と決まるわけではありません。
Q:施設について最初に誰へ相談すればよいですか?
A:担当ケアマネジャーがいる場合は、まず現在の状況を伝えます。担当ケアマネジャーがいなければ、介護を受ける人の居住地を担当する地域包括支援センターへ相談できます。
Q:相談したら、すぐに入居を決めなければいけませんか?
A:相談することと入居を決めることは別です。まず、在宅で利用できるサービスや候補となる施設など、どのような選択肢があるのかを整理します。その情報を得てから、入居するかどうかを考えられます。
Q:老健と老人ホームは同じですか?
A:同じとは限りません。老健は、病状が安定した要介護者に対し、医学的管理下の介護、リハビリテーション、必要な医療、日常生活上の世話などを提供する施設です。有料老人ホームや特別養護老人ホームなどとは役割が異なるため、本人の状態と目的に合う施設かを確認します。
まとめ|ADLの低下を感じたら、限界になる前に相談を始める

老人ホームへの入居を考え始める時期に、すべての家庭へ共通する正解はありません。
私の場合は、母が食事や排泄などを自力で行いにくくなったことが、在宅介護を続けるのは難しいと判断した最大の理由でした。転倒への不安や、仕事との両立が難しくなったことも重なっていました。
実際に状態が変化する前から、具体的な入居時期を判断するのは難しいと思います。それでも、これまでできていた日常生活動作が難しくなってきたと感じたら、入居を決める前でも相談と情報収集を始められます。
介護する家族が明確に「限界だ」と感じるまで、一人で抱え続ける必要はありません。本人の状態だけでなく、介護者の仕事や生活も含めて、今後の選択肢を考えることが大切です。
食事や排泄など、これまでできていたことが難しくなってきたら、入居を決める前でも、担当ケアマネジャーや地域包括支援センターへ現在の状況を相談してみてください。
施設の種類や入居条件、利用できるサービスは、地域、本人の状態、施設によって異なります。具体的な内容は、担当ケアマネジャー、地域包括支援センター、各施設へ確認してください。
