
要介護3だった母を、私は約1年間、自宅で介護しました。
私は介護の仕事をしています。介護が始まる前は、知識や技術がある分、親の介護にもある程度は対応できると思っていました。
しかし、実際に母を介護して分かったのは、介護職として行う介護と、自宅で親に行う介護はまったく同じではないということです。
特に大変だったのは、排泄や清潔を保つための介助でした。方法を知っていても、疲れや焦りがなくなるわけではありません。相手が自分の親だからこそ、仕事では感じない戸惑いや苛立ち、申し訳なさも生まれました。
この記事では、母の介護が急に始まったときから、約1年後に在宅介護を続けられなくなるまでを振り返ります。
●この記事でわかること
- 要介護3の母の在宅介護が始まった経緯
- 排泄や清潔の介助で感じた身体的・精神的な負担
- 介護職としての介護と、親を介護することの違い
- 介護サービスが予定どおり利用できないときの現実
- 約1年間の在宅介護を経て、老健への入所を決めた理由
これは、要介護3の人すべてに当てはまる話ではありません。あくまで、一人の介護職であり、一人の息子でもある私の体験です。
母の介護は、ある日突然始まった

それまでの母は、何とか自分のことを自分で行っていました。
もちろん、年齢とともに難しくなっていることはありました。それでも、本人なりの生活を続け、デイサービスにも自分から通っていました。
大きく状況が変わったのは、2025年の年明けです。
母が転倒し、額にけがをしました。その後、体調を崩し、入院手前の状態にまでなりました。
それを境に、それまで通っていたデイサービスにも行きたがらなくなりました。身の回りのことも、これまでどおりにはできなくなっていきました。
家族の介護は、十分な準備をしてから始まるとは限りません。
昨日まで何とかできていたことが、今日はできなくなる。その変化に、本人も家族も気持ちが追いつかないまま、介護だけが始まっていきます。
私の場合も、心の準備が整ってから介護を始めたわけではありません。
「これからどうなるのだろう」と考える余裕もないまま、その日に必要なことへ対応していく毎日になりました。
要介護3の在宅介護は、生活全体を支えることだった

「要介護3」と聞いても、実際の暮らしを見なければ、どのような介護が必要なのかは分かりにくいと思います。
同じ要介護3でも、身体の状態や認知機能、家族構成、住環境によって、必要な支援は違います。
母の場合は、単に一つの動作を手伝えばよいという状態ではありませんでした。
食事、排泄、清潔、着替え、部屋の状態、体調の変化など、生活のさまざまな部分に目を配る必要がありました。
一つひとつは、小さな手助けに見えるかもしれません。
しかし、介護する側から見ると、それらは別々の作業ではありません。朝から夜まで続く、一つの生活としてつながっています。
何か一つが終わっても、介護そのものが終わるわけではありません。
母が安全に過ごせているか。困っていないか。体調が悪くなっていないか。
母と離れているときも、頭のどこかで気にしていました。
在宅介護の負担は、実際に介助している時間だけでは測れないと感じます。
最も大変だったのは、排泄と清潔の介助だった

私が母の在宅介護で最も大変だと感じたのは、排泄と清潔を保つための介助でした。
排泄は、介護する側の都合に合わせてくれません。
こちらが疲れているときでも、仕事へ行く前でも、休みたいときでも、必要になれば対応しなければなりません。
一度対応すれば、それで終わりとも限りません。
排泄に伴う衣類や周囲の清潔を保ち、母が不快な状態で過ごさないようにする必要があります。介助を終えたと思っても、また別の対応が必要になることもありました。
身体的な負担だけではありません。
排泄や清潔の介助は、本人にとっても人に見られたくない部分に関わります。介助する側が効率だけを考えれば、本人の気持ちを置き去りにしてしまいます。
一方で、毎日の対応が続くと、介護する側にも余裕がなくなります。
「母の尊厳を守りたい」という気持ちと、「少しでも早く終わらせたい」「もう休みたい」という気持ちが、私の中でぶつかることがありました。
介護職としては、排泄介助の方法を知っています。
しかし、方法を知っていることと、家族として穏やかに対応し続けられることは別でした。
私はこの経験から、排泄介助の大変さは、作業そのものだけではないと思うようになりました。
終わりが見えにくいこと。予定どおりに進まないこと。そして、本人の尊厳と介護者の感情の両方に深く関わること。
それが、排泄や清潔の介助を重くしていたのだと思います。
介護職でも、親の介護では冷静でいられない

介護の仕事では、決められた勤務時間があります。
困ったときには同僚へ相談できます。自分一人で対応できないときは、ほかの職員に協力を求めることもできます。
仕事が終われば、いったん介護の現場から離れられます。
しかし、自宅での介護には、はっきりした勤務終了時間がありません。
介護する相手は利用者ではなく、自分を育ててくれた母です。
母の変化を客観的に見なければならないと思う一方で、息子としての感情が入ります。
「もっとできるはずだ」
「介護の仕事をしている自分が弱音を吐いてはいけない」
そう考えて、自分の負担を軽く見ていたところもあったと思います。
けれど、知識があるから疲れないわけではありません。
技術があるから悲しくならないわけでも、腹が立たなくなるわけでもありません。
むしろ介護の知識があるために、「本来なら、もっと穏やかに対応できるはずだ」と自分を責めることもありました。
仕事ではできていることが、なぜ母にはできないのか。
その違いに苦しみました。
今振り返ると、できなかったのではなく、親子という関係の中で感情が動くのは自然なことだったのだと思います。

介護サービスがあっても、予定どおり使えるとは限らない

在宅介護を続けるためには、介護サービスを利用することが大切だと言われます。
私も介護職ですから、家族だけですべてを抱えるべきではないことは分かっていました。
しかし、サービスが存在することと、実際に利用できることは同じではありません。
母は、それまで自分から通っていたデイサービスへ行きたがらなくなりました。
家族としては、デイサービスへ行ってくれれば安心できます。介護する側が休める時間もできます。
けれど、本人が嫌がれば、家族の思いどおりには進みません。
無理に行かせるべきなのか。
今日は休ませたほうがよいのか。
このまま利用しなくなれば、自宅での負担はどうなるのか。
その都度、迷いました。
介護サービスは、申し込めば自動的に家族の負担を減らしてくれるものではありません。
本人の体調や気持ち、事業所との相性、家族の予定など、さまざまな条件が合って、初めて継続して利用できます。
在宅介護では、「使える制度やサービスを知っているか」だけでなく、本人が利用できる状態をどう作るかも大きな課題になると感じました。
在宅介護には、生活との境界線がなかった

自宅は、本来なら休む場所です。
しかし、介護が始まると、自宅が介護の場所にもなります。
食事をしているときも、休んでいるときも、母のことが気になります。
今日は無事に過ごせるだろうか。
また体調を崩さないだろうか。
排泄や清潔の対応が必要にならないだろうか。
介護していない時間にも、気持ちは介護から離れられませんでした。
この状態が続くと、どこまでが自分の生活で、どこからが介護なのか分からなくなっていきます。
家族だから、できるだけのことはしたい。
母に安心して自宅で暮らしてほしい。
その思いはありました。
一方で、自分の仕事や体力、生活も守らなければなりません。
「家族なのだから介護するのは当然だ」と考えてしまうと、自分の負担を後回しにしてしまいます。
けれど、介護する側の生活が崩れれば、在宅介護そのものも続きません。
私は、限界になってから初めて、その当たり前のことに気づきました。
約1年間の末に、母を老健へ預けることを決めた

母の在宅介護は、約1年間続きました。
その間、何度も「もう少し自宅で見られるのではないか」と考えました。
介護職である自分が、母を施設へ預けてよいのかという迷いもありました。
施設へお願いすることは、母を見放すことではない。
頭ではそう分かっていても、気持ちは簡単には割り切れませんでした。
最終的に、私は母を老人保健施設へ預けることを決めました。
在宅介護を続けられなかったという思いと、これ以上は自分だけでは支えられないという現実の間で悩んだ末の決断でした。
今でも、「もっとできたのではないか」と考えることがあります。
それでも、当時の自分が何も考えずに施設を選んだわけではありません。
母の状態、自分の体力、仕事、今後の生活を考え、迷いながら選びました。
施設を利用することは、介護をやめることではありません。
自宅だけで支える形から、施設の職員にも支えてもらう形へ変えることだったと、今は考えています。

要介護3の母を自宅で介護して分かった6つのこと

1.介護は準備が整うまで待ってくれない
母の介護は、転倒と体調悪化をきっかけに急に始まりました。
親が元気なうちは、介護について話しにくいものです。しかし、いざ必要になってからでは、本人も家族も落ち着いて考える余裕がありません。
2.在宅介護は、個別の介助ではなく生活全体を支えること
食事、排泄、清潔、体調、通院、サービス利用などは、すべてつながっています。
一つの介助だけを切り離して考えることはできませんでした。
3.排泄や清潔の介助は、心にも負担がかかる
排泄介助は、体力だけでなく気持ちも消耗します。
本人の尊厳に配慮しながら、繰り返し必要な対応を続けることは、想像していた以上に重いものでした。
4.介護の知識があっても、家族としての感情はなくならない
介護職として分かっていることと、息子として受け止められることは別でした。
正しい対応を知っているからこそ、思うようにできない自分を責めることもありました。
5.介護サービスは、家族の計画どおりに使えるとは限らない
本人が利用を嫌がることもあります。
サービスの種類を知るだけでなく、本人の気持ちを含めて利用方法を考える必要がありました。
6.施設へ頼ることは、家族の失敗ではない
在宅介護を続けることだけが、正解ではありません。
自宅で暮らすことが本人と家族の双方にとって難しくなったとき、施設へ支援を引き継ぐことも介護の一つです。
在宅介護を一人で背負わないでほしい

要介護3の家族を自宅で介護できるかどうかは、要介護度だけでは決められません。
本人の身体状態や認知機能、住環境、利用できるサービス、介護する家族の人数や健康状態によって変わります。
大切なのは、「まだ何とかできる」と我慢し続けることではなく、今の介護がどの程度の負担になっているかを周囲へ伝えることだと思います。
地域包括支援センターでは、高齢者や家族からの幅広い相談を受け、必要な制度やサービス、関係機関へつなぐ支援が行われています。また、短期入所生活介護、いわゆるショートステイは、家族介護者の身体的・精神的負担を軽減する目的でも利用されます。地域や本人の状態によって利用条件は異なるため、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談してください。
私自身、「介護職なのだから、もっとできるはずだ」と考えすぎていました。
しかし、一人で耐え続けることは、母のためにも自分のためにもなりませんでした。
今、在宅介護がつらいと感じている人には、次のように伝えたいです。
つらいと感じるのは、愛情がないからではありません。
介護を投げ出したいと考える瞬間があっても、それだけで介護者失格になるわけではありません。
疲れたときには、介護の量や方法を変える必要があります。
相談すること、休むこと、サービスを増やすこと、施設の情報を集めることは、逃げではありません。
介護を続けるため、あるいは続け方を変えるために必要な行動です。

よくある質問
Q:要介護3でも自宅で介護できますか?
A:自宅で介護できるかどうかは、要介護3という区分だけでは決まりません。
本人の状態、家族の介護力、住環境、利用できるサービスなどによって大きく変わります。
私の場合は約1年間続けましたが、最終的には自宅だけで支えることが難しくなり、老健への入所を決めました。
Q:排泄介助がつらいと感じるのはおかしいですか?
A:おかしいことではないと思います。
排泄介助は身体的な負担だけでなく、予定どおりに進まないことや、本人の尊厳に関わることによる精神的な負担もあります。
つらさを我慢するだけでなく、介助方法やサービスの利用について、ケアマネジャーなどへ具体的に相談することが大切です。
Q:施設を検討するのは、在宅介護を諦めることですか?
A:私はそうは思いません。
施設を検討することは、本人と家族が安全に生活する方法を増やすことです。
実際に入所するかどうかをすぐに決めなくても、早い段階で施設の種類や費用、申込み方法を調べておくことはできます。
限界になってから探し始めるより、余裕のあるうちに選択肢を知っておくほうが、落ち着いて判断しやすいと思います。
まとめ|在宅介護の現実は、知識だけでは乗り切れなかった

要介護3だった母を約1年間、自宅で介護して、私は次のことを知りました。
介護は突然始まり、家族の生活全体に入り込んできます。
特に排泄や清潔の介助は、体力だけでなく、本人の尊厳や介護者の感情にも深く関わります。
介護職として知識や経験があっても、親の介護を冷静に続けられるとは限りません。
介護サービスも、本人の気持ちや状態によって、予定どおり利用できないことがあります。
そして、在宅介護を続けられなくなったときに施設へ頼ることは、介護を放棄することではありません。
私の約1年間は、うまく介護できたという成功談ではありません。
できなかったことも、迷ったことも、後悔も残っています。
それでも、その経験から一つだけはっきり言えることがあります。
家族介護は、一人で背負い続けるものではありません。
今つらいと感じているなら、その気持ちをなかったことにせず、まず現在の負担を誰かに伝えてください。
介護の方法を変えることも、支援を増やすことも、施設を検討することも、本人と家族の生活を守るための介護です。
この記事は、要介護3だった実母を自宅で介護した筆者個人の体験です。必要な介護や利用できる制度・サービスは、本人の状態や地域によって異なります。個別の介護方法やサービス利用については、担当のケアマネジャー、地域包括支援センター、市区町村の窓口などへご相談ください。
