認知症の人が怒るときの背景と対応|介護現場で私が考えていること

認知症の人が怒るときの背景と対応|介護現場で私が考えていること

「何で帰らせてくれないの?」と怒り、テーブルを叩く。出口を探して室内を歩き回り、ドアを開けようとする。私は認知症グループホームの介護現場で、そのような場面を何度も経験してきました。

認知症の人が怒っているとき、怒りだけを止めようとしていては、その背景を十分に考えることはできません。私は、本人の希望が通らなかったこと、不安や混乱、説明の理解しにくさ、身体状態や環境、職員の声かけや態度などを一つずつ考えるようにしています。

話せる状態なら訴えを聴き、事情を説明する。話ができないほど怒りが強いときは、安全を確認しながら距離と時間を置く。対応する職員を代えることもあります。それでも、すぐに落ち着いてもらえるとは限りません。私は、こうした対応には職員の人間性も大きく関わると考えています。

●この記事でわかること

  • 帰宅願望や職員の対応をきっかけに、利用者が怒った代表的な場面
  • 本人の希望、不安や混乱、身体状態、環境など、怒りの背景を考える視点
  • 傾聴、説明、距離と時間、職員交代という対応と、その限界
  • 性格、自制、敬意、傾聴、相性を含む「職員の人間性」についての考え
  • 急な怒りや危険性が高いときの確認事項と、チームや医療側へ共有する内容

認知症の人が怒ったときの対応について、一つの正解があるわけではありません。私が複数の利用者との間で経験してきた場面を振り返りながら、怒りの背景をどう考え、現場でどのように対応しているのかを順にお伝えします。

私が何度も見てきた、認知症の人が怒る場面

私が何度も見てきた、認知症の人が怒る場面

ここでは、特定の一人に起きた一連の出来事ではなく、私が介護現場で複数の利用者との間で何度も経験してきた代表的な場面を取り上げます。多かったのは、「家に帰りたい」という思いが強くなったときと、職員の対応に対して利用者が不満を表したときです。

「家に帰りたい」という思いが強くなったとき

帰宅願望が強くなると、利用者から次のような言葉を聞くことがあります。

  • 「出口はどこ?」
  • 「早く家族に電話して」
  • 「何で帰らせてくれないの?」
  • 「私が何か悪いことをした?」

これらは、私が実際に聞いた代表的な言葉です。

言葉だけでなく、テーブルを叩きながら訴える、室内を歩き回る、出口を探してドアを開けようとする、ドアを叩くといった行動が同時に見られることもあります。怒りがさらに強くなると、職員に手を挙げる利用者もいました。

本人は、家に帰りたいのに帰れないと受け止めていたのかもしれません。その理由を十分に理解できていなかった可能性や、職員が自分を帰してくれないと感じていた可能性もあります。私は、そのような不安や混乱、職員への不信感が怒りにつながっていたのではないかと考えたことがあります。

ただし、同じ言葉を口にしていても、本人が何を思い、何を心配しているのかは一人ひとり違います。発言や行動だけから、その人の気持ちを決めつけることはできません。

職員の対応が怒りのきっかけになったとき

利用者が怒るきっかけは、認知症の状態や帰宅願望だけではありません。職員の対応がきっかけになった場面も、私は実際に見てきました。

利用者が、職員に無視された、ぞんざいに扱われた、自分の訴えや依頼を聞いてもらえなかったと感じたときには、「何で私の言うことを聞いてくれないの?」「ここはどういうところなの?」と怒ることがあります。

また、職員が先に感情的になり、その感情が言葉や態度に出た場面では、利用者から「何でそんなこと言われなければいけないの?」「ひどいことするね」「もう家に帰らせて」という言葉が返ってきたこともありました。これらも、私が実際に聞いた代表的な言葉です。

利用者側だけに原因を求めず、職員がどのような声をかけ、どのような態度で接したのかも見直さなければならないと私は考えています。

怒りだけを止めようとせず、まず背景を考える

怒りだけを止めようとせず、まず背景を考える

認知症の人が怒っているとき、私は怒りだけを止めようとするのではなく、その背景に何があるのかを考えるようにしています。

怒りの背景は一つではありません。本人の希望が通らなかったこと、不安や混乱が強かったこと、説明が理解できなかったこと、職員の声かけや接し方が悪かったこと、ぞんざいに扱われたと感じたことなど、いくつもの可能性があります。

本人の希望が通らない不安や混乱

「家に帰りたい」という言葉は、少なくともその場で本人から表された希望です。その希望が通らないまま、理由を繰り返し説明されても理解できなければ、不安や混乱が強くなることがあります。

だから私は、「帰れません」と押し返すことから始めるのではなく、本人が何を訴えているのかを聴く必要があると考えています。誰に会いたいのか、何を心配しているのか、なぜ今すぐ帰りたいのか。言葉や行動を、止めるべきものとしてだけ見るのではなく、本人の希望を知るための情報として受け取ります。

話を聴いても理由がわからない場合はあります。原因を一つに決めず、職員が見えていない事情も考えます。

身体状態、環境、対人関係も一つずつ確認する

長寿科学振興財団の解説では、認知症の行動・心理症状は、認知機能の低下だけでなく、身体的要因、環境的要因、心理的要因などの影響を受け、その現れ方は認知症の病型や病期によっても異なるとされています。

また、厚生労働省掲載「BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)」でも、脳病変の進行だけでなく、生活環境、対人関係、本人の性格など、個々の人に関わる要因を考慮する必要があると示されています。

私が現場で確認したいのは、たとえば次のようなことです。

  • 本人の希望を聴かないまま、話を進めていなかったか
  • 説明の速さや言葉の量は、その人に合っていたか
  • 周囲の音や人の出入りなど、落ち着きにくい環境ではなかったか
  • 身体の変化や、直前の職員とのやり取りに気になる点はなかったか

同じ厚生労働省掲載ガイドラインでは、状態を把握したうえで、環境の調整、ケアの変更、心理的な働きかけなど、薬を使わない対応を先に検討するという原則も示されています。私は、認知症だけを原因にせず、本人の状態と周囲の関わりの両方を見る必要があると考えています。

私が介護現場で行っている対応

私が介護現場で行っている対応

認知症の人が怒ったときは、話ができる状態か、転倒の危険はないかを見ながら対応を変えます。落ち着いた声かけ、傾聴と説明、距離を取る、職員交代、時間を置くといった対応がありますが、どれも必ず落ち着く方法ではありません。

話せる状態なら、訴えを聴き事情を説明する

本人と話ができる状態であれば、まず私は落ち着いて、できるだけ冷静に声をかけます。可能であれば椅子やソファに座ってもらい、何に怒っているのか、何を望んでいるのかを聴きます。無理に座らせるのではなく、座って話せる状態ならそうしてもらうということです。

職員が話を聴こうとしていることが伝わるように、本人の訴えに耳を傾けます。そのうえで、状況や事情を、できるだけわかりやすい言葉で説明します。

厚生労働省の意思決定支援ガイドラインでは、本人の意思を尊重し、理解しやすい言葉でゆっくり説明すること、焦らせずに意思を確かめることが示されています。

ただし、説明や傾聴は、怒りを収めるための決まった技術ではありません。話を聴くことで落ち着く場合もありますが、こちらの説明が理解されないことも、納得してもらえないこともあります。

話ができないほど怒っているときは、距離と時間を置く

怒りが強く、こちらが何を言っても話ができない状態では、声をかけ続けても話が通じないことがあります。私はそのようなとき、転倒やけがなどの危険に注意しながら、適度な距離を取り、極力見守りに徹します。

本人が室内を歩き回っている場合や、ドアを叩いている場合には、事故が起きないように様子を見続けます。そのうえで、怒りが少し収まり、再び話せる状態になるのを待ちます。現場では、時間を置くことしかできない場合もあります。

距離を置くことは、放置することではありません。安全を確認しながら、職員からの働きかけをいったん減らす対応です。どの程度の距離を取るか、いつ声をかけ直すかは、本人の様子とその場の状況によって変わります。

対応する職員を代えることで落ち着く場合もある

同じ利用者でも、対応する職員が代わることで落ち着きを取り戻す場合があります。

先に対応していた職員とのやり取りで怒りが強くなっているときや、利用者と職員の相性が良くないときには、そのまま一人の職員が対応を続けるより、別の職員に代わったほうがよいことがあります。職員の交代は、対応を投げ出すことではなく、その場の関係と雰囲気を変えるための選択肢です。

支援方法に迷う場合は、チームで情報を共有し、どのように関わるかを話し合うことが公的ガイドラインにも示されています。ただし、それぞれの職場で定められた報告や対応の手順がある場合は、その手順に従います。厚生労働省「意思決定支援ガイドライン(第2版)」

対応しても、怒りがすぐ収まるとは限らない

対応しても、怒りがすぐ収まるとは限らない

落ち着いて話を聴き、事情を説明しても、怒りがすぐに収まるとは限りません。ほどなく収まることもあれば、数時間続くことも、寝るまで続くこともあります。これは、私が介護現場で経験してきた事実です。

対応がうまくいったかどうかも、その場だけを見て一律に決められるものではありません。本人の性格や認知症の状態、怒りの原因とそこへ至るまでの過程、対応した職員の関わり方によって結果は変わります。

ほどなく収まる場合も、寝るまで続く場合もある

話を聴いたり職員を代えたりして、ほどなく落ち着く場合があります。反対に、何を説明しても数時間、あるいは寝るまで怒りが続くこともあります。

その違いを、対応した職員の技術だけで説明することはできません。本人の状態や怒りのきっかけによって、同じ言葉でも受け止められ方は変わります。

認知症の人の怒りを一括りにできない理由

長寿科学振興財団の資料でも、認知症の行動・心理症状は身体、環境、心理などの影響を受け、現れ方には違いがあるとされています。また、厚生労働省掲載ガイドラインでは、生活環境、対人関係、本人の性格など、個々に関わる要因を考慮する必要があると示されています。

現場でも、同じ「家に帰りたい」という言葉から始まっていても、その後の経過は同じではありません。話を聴くことで落ち着く場合もあれば、職員がいったん距離を置いたほうがよい場合もあります。同じ利用者でも、いつも同じ経過になるとは限りません。

認知症の人が怒ったときの対応は、千差万別です。「認知症の人にはこの対応をすればよい」と、一括りにして語れるものではないと私は考えています。

職員の人間性が対応を左右すると私は考えている

職員の人間性が対応を左右すると私は考えている

対応する職員が代わることで利用者が落ち着きを取り戻す場面を、私は実際に経験してきました。これは、私が介護現場で経験してきた事実です。その経験から、職員がどのような言葉を使うか、利用者の訴えをどう聴くか、自分の感情をどこまで抑えられるかによって、その後のやり取りは変わると感じています。私は、怒った利用者への対応には職員の人間性が大きく関わると考えています。

私自身が先に感情的になったこともある

私自身、介護の仕事を始めて経験が浅かったころ、利用者とのやり取りのなかで自分の感情を抑えきれず、先に感情的になってしまったことがあります。

そのとき私は、なぜ自分が感情的になったのかを本人に説明し、理解してもらおうと努めました。ただし、その説明がどこまで伝わったのか、利用者がどう受け止めたのかは、一概には言えません。

職員が先に怒った場面では、利用者から「何でそんなことを言われなければいけないの?」と返されたことがあります。利用者の怒りだけを問題にして、職員側の言葉や態度を見ないままでは、その場で起きたことを正しく振り返ることはできません。

性格、自制、敬意、傾聴、相性に表れる人間性

私がここでいう職員の人間性とは、職員の性格、感情を抑える力、利用者への敬意、話を聴く姿勢、相手との相性です。

忙しいときや訴えが繰り返されるときにも、相手へ敬意を払い、本人が何を訴えているのかを聴けるか。感情が動いたときに、そのまま相手へぶつけずにいられるか。私は、そうした部分を人間性だと考えています。

厚生労働省のガイドラインでも、本人の意思表明は支援者の姿勢、信頼関係、関係性、支援する側の力や環境から影響を受けるとされています。

公的資料が「職員の人間性」という言葉で説明しているわけではありません。しかし、現場で利用者と向き合ってきた私は、支援者の姿勢や感情の抑え方、敬意、傾聴、相性まで含めて、職員の人間性が対応を左右すると考えています。

利用者だけでなく、職員側の言葉と態度も振り返る

認知症の人が怒ったときは、職員の言葉や態度が怒りを強めていなかったかも振り返る必要があります。職員も感情的になることはあります。それでも、その感情をそのまま利用者へぶつけてはいけないと私は考えています。

訴えを聞き流していなかったか。命令するような口調や、ぞんざいな態度になっていなかったか。怒りの背景を考えるときには、職員側の関わりも確認しなければなりません。

私自身も含め、利用者と関わる職員が、その都度自分の対応を振り返る必要があると考えています。

急な怒りや危険性が高いときに確認したいこと

急な怒りや危険性が高いときに確認したいこと

急に怒りや興奮が強くなった場合や、本人や周囲にけがの危険がある場合は、いつもの認知症の症状だと決めつけず、身体の変化と安全を確認します。介護職が診断するのではなく、普段との違いを観察し、気づいた事実をチームや医療職へ伝えます。

痛み、便秘、脱水など身体の変化も考える

厚生労働省掲載のガイドラインでは、感染症、脱水、痛み、便秘、視覚・聴覚の問題、薬の影響、せん妄なども確認する必要があるとされています。また、せん妄は急に起こり、感染症、脱水、薬、環境の変化などが原因になることがあると専門機関の資料で説明されています。

ただし、怒りが見られるたびに身体疾患やせん妄だと判断するわけではありません。急な変化があるときに、食事、水分、排泄、痛み、服薬や環境の変化など、現場で確認できる事実を見直します。

一人で抱えず、チームや医療職へ共有する

対応が難しい場合は、ほかの職員や責任者へ状況を伝えます。チームで情報を共有して話し合うことは、厚生労働省の意思決定支援ガイドラインにも示されています。変化した時期、直前の出来事、食事・水分・排泄、行った対応などを共有します。

本人や周囲への危険性が高い場合は、安全を確保しながら職場の手順に従い、必要に応じて専門職や医療へつなぎます。自分自身や他者を危険にさらすほど攻撃性が高く、緊急性がある状態では、認知症の専門医がいる医療機関への紹介が厚生労働省掲載ガイドラインに示されています。

通常の怒りまですべて医療へ結びつけず、急な変化や高い危険性があるときに、観察した事実を共有します。

認知症の人の怒りへの対応でよくある質問

Q:認知症の人が怒り始めたとき、まず何をすればよいですか?

A: 私が現場でまず確認するのは、本人が何を訴えているのか、直前に何があったのか、普段と違う身体の変化や周囲の環境がないかということです。話せる状態なら落ち着いた声で訴えを聴きます。会話が難しいほど怒りが強い場合は、安全を確認しながら距離を取ります。

Q:「家に帰りたい」と繰り返すときは、どう対応しますか?

A: 私は、すぐに「帰れません」と押し返すことから始めず、誰に会いたいのか、何を心配しているのかなど、本人の訴えを聴くようにしています。そのうえで事情を説明しますが、説明すれば必ず納得してもらえるとは限りません。

Q:怒っている人から距離を置くのは、放置になりませんか?

A: 私が行っているのは、見守りをやめることではありません。転倒やけがの危険を確認し続けながら、職員からの働きかけをいったん減らし、適度な距離と時間を置く対応です。現場では、時間を置くしかない場合もあります。

Q:対応する職員を代えてもよいのでしょうか?

A: 対応する職員が代わることで、利用者が落ち着きを取り戻す場合があります。交代は対応を投げ出すことではなく、利用者と職員の関係やその場の雰囲気を変える選択肢です。難しい対応を一人で抱えず、状況と経過をチームで共有することは、厚生労働省のガイドラインにも示されています。

まとめ|怒りの背景と職員側の関わりを振り返る

まとめ|怒りの背景と職員側の関わりを振り返る

認知症の人が怒る理由や、その後どれほど怒りが続くかは、一つにまとめられません。本人の希望が通らないこと、不安や混乱、身体状態や環境、職員の声かけや態度など、いくつもの背景が考えられます。

だから私は、怒りだけを止めようとするのではなく、本人が何を訴えているのかを聴き、職員側の関わりも振り返る必要があると考えています。

  • 帰宅願望や職員の対応をきっかけに、怒りが表れることがある
  • 帰宅を訴える言葉や行動を、本人の希望や不安を考えるための情報として受け取る
  • 話せる状態なら、落ち着いて訴えを聴き、わかりやすく事情を説明する
  • 話ができないほど怒りが強いときは、安全を確認しながら距離と時間を置き、必要に応じて職員を代える
  • 同じ対応でも結果は人によって異なり、職員の人間性や関わり方も対応を左右すると私は考えている
  • 急な変化や危険性が高いときは、身体の変化を確認し、チームや医療職へ観察した事実を共有する

職員の人間性は、利用者への敬意、自分の感情を抑える力、話を聴く姿勢、相手との相性などに表れます。利用者の怒りだけを問題にせず、私自身も含め、職員が自分の言葉と態度を振り返る必要があると考えています。

傾聴や説明をしても、すぐに落ち着いてもらえるとは限りません。安全を確認しながら待つしかない場面もあります。認知症の人の怒りを一括りにせず、その人とその場の状況を見ながら考えることが、私が介護現場で大切にしている姿勢です。

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