
高齢の家族が自宅で転倒すると、手すりや杖などをすぐに用意したほうがよいのか、それとも先に家の中を片付けるべきなのか迷うことがあります。
私の母も、2025年の年明けに玄関で転倒し、その後はベッドやテーブルの周辺、脱衣場、トイレでも転倒することが増えました。手すり、4点杖、固定型歩行器などを母のために用意し、その使用状況を見て感じたのは、用品をそろえるだけではなく、本人が毎日歩く経路と、実際に何につかまっているかを見ることの大切さです。
●この記事でわかること
- 自宅で最初に確認したい生活動線と危険箇所
- 玄関、寝室・居室、廊下・トイレ、脱衣所・浴室の見直し方
- 母が実際に使った転倒対策用品と使用状況の違い
- 本人の身体状態、使う意思、住環境に合わせた用品の選び方
- 転倒後に判断に迷ったときの公的な相談手段
この記事では、母の転倒と用具使用の経験をもとに、自宅のどこを確認し、用品をどのような視点で選べばよいのかを順番に整理します。
自宅の転倒予防は、便利グッズより先に生活動線を確認する

手すりや杖、歩行器を探す前に、まず本人が毎日どこを歩いているかを確認します。寝室からトイレ、居室から食卓、玄関から室内へと実際の経路をたどり、立ち上がる場所、方向を変える場所、何につかまっているかを見ていきます。
毎日歩く経路から確認する
母は2025年になると、ベッドやテーブルの周辺、浴室の脱衣場、トイレの中などで転倒することが増えました。後には固定型歩行器を使わず、壁や家具につかまって歩いていました。用品を置いて終わりにせず、本人が実際に何を支えにしているかを見る必要があります。
床の物・コード・敷物・濡れ・暗さを見直す
生活動線が分かったら、次の点を確認します。
- 床に置いた物が通り道を狭くしていないか
- 電源コードが歩く場所を横切っていないか
- カーペットやマットの端が浮いたり、ずれたりしていないか
- 床が濡れたままになっていないか
- わずかな段差が見えにくくなっていないか
- 夜間や薄暗い場所で足元を確認できるか
- 滑りやすい靴下やスリッパを履いていないか
消費者庁も、床の物やコード、濡れた床、段差、照明、履物などの見直しを案内しています。敷物は、床材や製品に合った方法でずれないようにします。
参考:消費者庁「高齢者の事故を防ぐために」/NITE「屋内で起こる高齢者の転倒・転落事故を防ぐ」
転倒が増えたときは住環境だけの問題と決めつけない
転倒の原因を住環境だけに決めることはできません。消費者庁は、加齢や疾患、薬の影響などを含む身体の状態も確認するよう案内しています。
私は母の転倒に脳梗塞後の影響が関係したのではないかと考えましたが、医学的に確定した原因ではありません。転倒が急に増えた、歩き方が変わった、以前の用具を使わなくなったときは、片付けだけで終わらせず、ケアマネジャーや医療・リハビリの専門職などへの相談も考えます。
場所別|自宅で見直したい転倒の危険箇所

消費者庁の事故情報では、浴室・脱衣所、ベッド・布団、玄関・勝手口、階段などが転倒場所として挙げられています。すべての家庭に同じ危険があるわけではないため、本人の生活動線と家の構造を重ねて確認します。
玄関|段差、履物、明るさ、つかまる場所
玄関では、段差、履物、足元の明るさ、安定してつかまれる場所を確認します。母が暮らした古い家には土間から畳の部屋へ上がる段差があり、2020年の脳梗塞後、ケアマネジャーに勧められた上がりかまちステップを入所まで使いました。段差解消用品は、位置やぐらつきと実際の上り下りも確認します。
寝室・居室|ベッドやテーブル周辺の床と立ち上がり
寝室や居室では、立ち上がる場所から移動先まで、物やコード、敷物、家具で狭くなった通路がないかを見ます。母はベッドやテーブルの周辺でよく転倒しましたが、瞬間を見ていないため原因は分かりません。周辺の床と、何につかまって移動しているかの両方を確認しました。
廊下・トイレ|移動経路と方向転換、立ち座り
廊下では支えが途切れていないか、トイレでは入口の方向転換と便座への立ち座りを確認します。手すりを検討するときは、本人が必要な位置で実際につかめるかを見ます。
脱衣所・浴室|濡れた床と出入りの動作
脱衣所や浴室では、濡れた床、ずれるマット、衣服の着脱、浴槽の出入り、つかまる場所を確認します。母も脱衣場で何度か転倒しました。
参考:消費者庁「10月10日は『転倒予防の日』、高齢者の転倒事故に注意しましょう!」
玄関での転倒から廊下の手すりを付けるまで

夜勤明け、玄関で母の転倒に気づいた
2025年の年明け、母が自宅の玄関で転倒しました。
母は私が出かけると玄関の引き戸に鍵をかけていました。その日は夜勤明けの私に合わせて事前に開けたのだと思いますが、鍵を開けるところも転倒の瞬間も見ていません。
朝に戸を開けると床に血が落ち、母はすでに部屋へ戻っていました。額からの出血が止まらなかったため、姉へ連絡して救急車を呼びました。母は脳梗塞の再発予防のため、血液が固まりにくくなる、いわゆる「血液サラサラ」の薬を服用していましたが、薬と出血の因果は私には判断できません。
私は脳梗塞後の影響が転倒に関係したのではないかと考えました。しかし、これは当時の私の判断であり、医学的に確定した原因ではありません。
ベッドやテーブル、トイレ周辺でも転倒が増えた
その後も、ベッドやテーブルの周辺、浴室の脱衣場、トイレ内で何度か転倒しました。いずれも瞬間は見ていません。廊下で倒れているところも見ていないため、廊下でも転倒したとは断定できません。
転倒に気づいたときは、介護の経験を踏まえてけがの有無を確認しました。玄関以外では、確認した範囲でけがはありませんでした。それでも転倒が続いたことが、母の移動方法と家の中を見直すきっかけになりました。
壁や家具につかまる母を見て手すりを取り付けた
2025年、母は固定型歩行器を使わず、壁や家具につかまって歩いていました。私は危ないと感じ、11月初めに母の部屋からトイレまでの廊下と、トイレ内に手すりを取り付けました。
材料と道具はホームセンターで購入し、私が取り付けました。ただし、壁の下地や高さ、固定方法は家によって異なるため、同じ方法を一律に勧めるものではありません。
「付けて良かった」と「もっと早く付ければよかった」
母は廊下の手すりにつかまって歩き、トイレの手すりも使いました。その姿を見て、「付けて良かった」という思いと、「もっと早く付けてやればよかったのに」という気持ちが交錯しました。
設置後に転倒がなくなったかは確認できていません。手すりが転倒を防いだとは断定せず、母が実際につかまって歩いた事実までを私の経験として伝えます。
母の変化に気づき、介護職の知識を家庭でどう生かしたかについては、介護職の知識が母の介護で役立ったこと・知っていてもできなかったことでも振り返っています。
母が実際に使った転倒対策用品

母のために用意した用品には、長く使ったもの、返却したもの、使いたがらなかったもの、状態によって使用頻度が変わったものがありました。
上がりかまちステップは入所まで使い続けた
上がりかまちステップは、2020年に母が2度目の脳梗塞を起こした際、ケアマネジャーに勧められてレンタルし、老健へ入所するまで使い続けました。
浴槽用手すりは必要性を見直して返却した
浴槽用手すりもレンタルしましたが、母はそれがなくても入浴できたため返却しました。製品が悪かったのではなく、母のその時点の動作には必要なかったということです。
4点杖は使いたがらず、固定型歩行器は時期で使用頻度が変わった
4点杖は母の妹から譲り受けましたが、母はうまく使えないようで、使いたがりませんでした。好きではないように見えましたが、その理由を詳しく聞けたわけではありません。
姉が手配して購入した固定型歩行器は、2020年の脳梗塞直後には必ず使っていました。身体の自由が少し戻るにつれて頻度が減り、2025年に歩行が不安定になったと私が感じた時期にも使いませんでした。必要に見える用具でも、本人が使うとは限りません。
電動ベッドは床からの立ち上がり負担を考えて購入した
脳梗塞前、母は畳に布団を敷いて寝ていました。床から立ち上がるのが大変そうだったため、姉が手配してベッドを購入しました。
高さ調整機能はなく、電動で上半身を上げる機能だけがありました。母は自力で起き上がれたため、その機能はほとんど使いませんでした。機能の多さより、本人がどの動作に困っているかを見ることが先だと感じた例です。
上がりかまちステップや浴槽用手すりを含め、在宅介護全体を見直した経緯は、在宅介護がきついと感じたら|限界前に見直すサービスと選択肢にもまとめています。
転倒予防用品は「本人が実際に使えるか」で選ぶ

転倒予防用品は、見た目の安定感や機能数だけでは選べません。本人の身体状態、操作方法、使う意思、家の構造との相性を確認します。
身体状態と操作方法が合っているか
多点杖は1点杖より接地面が広い一方、狭い階段や傾斜した場所には適さず、身長に合う寸法や重さの確認が必要です。固定型歩行器も、身体機能や体格、家の広さ、握る力などに合わせます。持ち上げる動作で後方へバランスを崩す可能性もあるため、操作できるかの評価が欠かせません。
これだけで母が4点杖を使えなかった理由は説明できませんが、杖や歩行器は渡せばすぐ使えるとは限りません。
参考:テクノエイド協会「歩行補助つえ」/テクノエイド協会「歩行器」
本人が使う意思と日々の使用状況を確認する
用品を用意した後は、本人が実際に使うかを確認します。母は4点杖を使いたがらず、固定型歩行器の使用頻度も変わりましたが、廊下とトイレの手すりにはつかまりました。操作、置き場所、別の支えの使用状況を見て、身体状態や生活が変われば用具も見直します。
家の広さ、段差、壁下地など住環境に合わせる
杖や歩行器は、通路の広さ、段差、傾斜との相性があります。手すりは位置だけでなく壁下地や固定方法も確認します。私は自分で取り付けましたが、DIYを一律には勧めません。本人の動きと家の構造を専門職に見てもらう方法もあります。
購入や工事の前に専門職と介護保険を確認する
介護保険では、条件に応じて福祉用具の貸与・販売や、手すりの取り付け、段差解消などが対象になる場合があります。ケアマネジャーや福祉用具専門相談員へ相談し、本人の希望、心身状態、住環境に合う用具を検討できます。対象や申請手順は個別に異なるため、購入や工事の前に確認します。
参考:厚生労働省「福祉用具・住宅改修」/厚生労働省「介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて」
転倒後は自己判断だけで済ませない

額の出血を確認し救急車を呼んだ経験
玄関で母の転倒に気づいたとき、私は額からの出血が止まらないことを確認し、姉に連絡して救急車を呼びました。瞬間を見ていないため、頭をどう打ったのか、服用していた薬と出血がどう関係したのかは判断できませんでした。
ほかの転倒でも介護の経験を踏まえてけがの有無を確認しましたが、目立つけがの有無だけで母の状態をすべて判断することは、私にはできませんでした。
判断に迷うときはQ助や地域の#7119も確認する
緊急性が明らかな場合は119番へ連絡します。判断に迷う場合、総務省消防庁の「Q助」では、症状に応じた対応と医療機関・受診手段の検索につなげられます。「#7119」は、実施地域で医師、看護師、救急救命士等から助言を受けられる救急相談窓口です。地域や時間が異なるため、実施状況を確認しておきます。
これらは緊急時に操作を優先するという意味ではなく、家族だけで判断しにくいときに公的な支援へつなぐ手段です。
参考:総務省消防庁「全国版救急受診アプリ Q助」/総務省消防庁「救急安心センター事業(#7119)」
よくある質問
Q:自宅の転倒予防では、最初にどこを確認すればよいですか。
A: まずは本人が毎日通る経路を確認します。寝室からトイレ、居室から食卓、玄関から室内までを実際にたどり、床の物、コード、敷物、濡れ、段差、暗さ、履物、何につかまっているかを見ます。
Q:手すりは家族が自分で取り付けてもよいですか。
A: 私は自宅の廊下とトイレに自分で取り付けましたが、DIYを一律には勧めません。壁の下地、位置、高さ、固定方法は家と本人の動きによって異なります。介護保険の住宅改修が対象になる場合もあるため、工事前にケアマネジャーなどへ相談する方法があります。
Q:4点杖と歩行器は、どちらを選べばよいですか。
A: どちらが一律に安全とはいえません。本人の身体状態、必要な操作、握る力、通路の広さ、段差、傾斜などを確認します。本人が実際に使えるかを、福祉用具専門相談員などと確認して選ぶことが大切です。
Q:手すりや歩行器に介護保険は使えますか。
A: 条件に応じて、福祉用具の貸与・販売や、手すりの取り付け、段差解消などの住宅改修が対象になる場合があります。対象となる用具や工事、申請手順は個別に異なるため、購入や工事をする前に確認します。
Q:転倒が急に増えたときは、家の片付けだけでよいですか。
A: 住環境の見直しは必要ですが、原因を家の中だけに決めることはできません。歩き方が変わった、以前の用具を使わなくなったといった変化があれば、ケアマネジャーや医療・リハビリの専門職などへの相談も考えます。
まとめ|転倒予防は生活動線と本人の変化を一緒に見る

自宅での転倒予防は、便利な用品をそろえることだけではありません。本人が毎日どこを歩き、どこで立ち上がり、何につかまっているかを見ることが出発点になります。
- 寝室からトイレなど、本人が毎日通る生活動線から確認する
- 玄関、寝室・居室、廊下・トイレ、脱衣所・浴室を場所別に見直す
- 床の物、コード、敷物、濡れ、段差、暗さ、履物を確認する
- 杖や歩行器、手すりは、用意した後に本人が実際に使えるかを見る
- 用具や住宅改修は、身体状態、本人の意思、住環境を踏まえて専門職へ相談する
- 転倒後に判断に迷う場合は、Q助や実施地域の#7119など公的な相談手段を確認する
母が手すりにつかまって歩く姿を見たとき、私は「付けて良かった」と思う一方、「もっと早く付けてやればよかったのに」とも感じました。転倒を完全に防げるとはいえませんが、本人の変化を見ながら、生活動線と用具をその都度見直していくことはできます。
まずは、本人が毎日通る経路を家族と一緒に歩き、つまずきやすい物や、支えにしている家具がないかを確認してみてください。用具選びや手すり工事で迷う場合は、購入・工事の前にケアマネジャーや福祉用具専門相談員へ相談できます。
