
「利用者に優しくできない」
「小さな一言にイライラしてしまう」
「もう限界かもしれない。でも、休んだら迷惑をかける」
このように感じながら働いているなら、気持ちを根性だけで抑え込まないでください。
介護職は、身体介助だけでなく、利用者や家族への対応、自分の感情を整えること、不規則な勤務など、さまざまな負担が重なりやすい仕事です。ただし、苦しさの原因や必要な対応は一人ひとり異なります。
私は認知症高齢者グループホームで働く現役介護職です。それでも、要介護3だった実母の在宅介護では、頭で理解していても感情が追いつかず、自分を責めた経験があります。
この記事では、介護職の心身に負担が重なる背景、注意したい変化、今日から取れる行動、職場内外の相談先を整理します。
今すぐ安全を確保したい方へ
「死にたい」「消えたい」と感じる、自分や誰かを傷つけそう、通常どおり行動できないほど切迫している場合は、一人にならず、身近な人や医療機関へ助けを求めてください。差し迫った危険がある場合は119番へ連絡してください。
厚生労働省の「まもろうよ こころ」では、電話やSNSの相談先を探せます。24時間対応の「#いのちSOS」は0120-061-338です。受付状況は公式サイトで確認してください。
介護職の心身に負担が重なりやすい背景

厚生労働省の「令和6年度 過労死等の労災補償状況」によると、業務による精神障害の労災請求は全体で3,780件でした。業種別では「医療、福祉」が983件で最も多く、そのうち「社会保険・社会福祉・介護事業」は589件でした。
これは請求件数であり、介護職一人ひとりの発症率を示す数字ではありません。しかし、医療・福祉の現場でメンタルヘルス対策が重要であることを考える材料になります。
人手不足や不規則勤務だけが原因とは限らない
介護職の負担には、次のようなものが考えられます。
- 人員不足や業務量の多さ
- 夜勤や不規則な勤務による睡眠への影響
- 職場の人間関係やハラスメント
- 利用者や家族からの暴言・暴力
- 事故を起こせないという緊張
- 理想と現実のケアの違い
同じ職場でも感じ方は異なります。心身の不調を「自分が弱いから」「職場がすべて悪いから」のどちらか一方で決めず、何が負担になっているかを整理することが大切です。
感情労働とバーンアウトを知る
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介護では、自分が疲れていたり腹を立てたりしていても、相手へ穏やかに接することが求められます。このように、仕事上必要な感情表現を整える働き方は「感情労働」と呼ばれます。
負担が長く続くと、強い疲労感、仕事への距離感、達成感の低下などが現れることがあります。バーンアウトについて語られる「情緒的消耗感」「脱人格化」「個人的達成感の低下」は、その状態を理解する枠組みの一つです。
ただし、イライラや冷たい態度だけでバーンアウトやうつ病と自己診断することはできません。睡眠、食欲、気分、仕事や生活への影響を含めて、必要に応じて医療機関や専門家へ相談してください。
【筆者の経験】介護職でも家族介護では心が追いつかなかった

私は、要介護3だった実母を約1年間、自宅で介護しました。
介護職として知識があっても、自分の親の介護は別でした。思うように動けない母へ苛立ち、声を荒げてしまったことがあります。「病気だから仕方ない」と頭では分かっていても、心が追いつきませんでした。
悩んだ末に、母を施設へ預ける決断をしました。その3か月後、母は亡くなりました。施設へ預けた判断と母の死に因果関係があったということではありません。それでも私は、「もっとできることがあったのではないか」と今も考えることがあります。
この経験から学んだのは、知識があっても感情の限界はなくならないということです。そして、限界になる前に人へ頼ることは、介護を投げ出すことではないということでした。
見逃したくない心身の変化
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次のような変化が続く場合は、無理を重ねないでください。
- 眠れない、途中で何度も目が覚める、朝起きられない
- 食欲が落ちた、または食べ過ぎるようになった
- 出勤前に動悸や吐き気がする
- 理由もなく涙が出る
- 利用者や同僚への怒りを抑えにくい
- 好きだったことを楽しめない
- 集中できず、ミスや確認漏れが増えた
- 「消えたい」「死にたい」と考える
これらは病名を決めるチェックリストではありません。症状の強さ、期間、生活への影響は人によって異なります。つらいと感じた時点で、医療機関や相談窓口を利用して構いません。
ストレスチェックは診断ではなく、気づきの機会
2025年の労働安全衛生法改正により、これまで努力義務だった労働者数50人未満の事業場にも、ストレスチェックが義務化されました。施行は2028年4月1日です。
ストレスチェックは、メンタルヘルス不調の診断や退職の可否を決めるものではありません。自分の状態に気づき、必要に応じて医師の面接指導や職場環境の改善につなげる制度です。
高ストレスという結果だけで自己判断せず、案内された面接指導や相談窓口を利用してください。職場で実施されていない場合は、厚生労働省「こころの耳」のセルフチェックも、自分の状態を振り返る参考になります。
限界を感じたときに取れる5つの行動

1.安全に働けない状態なら勤務を休む
集中できない、感情を抑えられない、ほとんど眠れていないなど、安全にケアを行えない状態なら、体調不良として勤務先へ連絡し、休むことを検討してください。
欠勤や休職の手続きは職場の就業規則によって異なります。無断で休まず、可能な範囲で定められた連絡方法を確認しましょう。
2.医療機関へ相談する
不眠、食欲低下、強い不安、涙が出るなどの状態が続く場合は、精神科や心療内科、かかりつけ医などへ相談してください。病名を自分で決めてから受診する必要はありません。
3.相談できる職場なら改善を求める
上司、人事、産業医、衛生管理者などに相談できる場合は、夜勤回数、担当業務、ハラスメント、利用者からの暴力など、負担になっていることを具体的に伝えます。
相談しても取り合ってもらえない、相談相手が加害者である、話すこと自体が危険と感じる場合は、職場内だけに頼らず外部窓口を利用してください。
4.職場の外へつながる
- 働く人の「こころの耳電話相談」
- 働く人の「こころの耳SNS相談」
- こころの耳「相談窓口案内」
- 各都道府県の産業保健総合支援センター、地域産業保健センター
受付時間や対象者は変更される場合があります。利用前に各公式ページを確認してください。
5.症状と仕事上の出来事を記録する
睡眠、食欲、体調、勤務時間、ハラスメントなどの出来事を日付とともに記録すると、医師や相談先へ状況を説明しやすくなります。
ただし、記録することがつらい、見つかると危険がある場合は無理をしないでください。自分の安全を優先します。
休職・異動・退職を一人で急いで決めなくてよい
休職、異動、勤務時間の変更、退職などは、どれも自分を守るための選択肢です。ただし、すべての人に退職が最善とは限りません。
体調が悪いときは大きな判断が難しくなることもあります。緊急に離れる必要がある場合を除き、医師、家族、外部相談窓口などと話しながら検討してください。休職制度、傷病手当金、退職手続きなどは、加入している健康保険や就業規則によって扱いが異なります。
介護の仕事自体が嫌いなのか、今の職場や働き方が合わないのかを分けて考えることも役立ちます。施設形態や勤務時間を変えることで、介護を続けられる場合もあります。
よくある質問
Q.人手不足で休むと言い出せません。
A.人手不足への責任を一人で背負う必要はありません。安全に働けない体調なら、職場の連絡方法に従って休むことを検討してください。自分で伝えることが難しい場合は、家族や医療機関などへ相談しましょう。
Q.利用者にイライラする私は介護職に向いていませんか?
A.イライラだけで適性を判断することはできません。疲労、睡眠不足、職場環境などを振り返りましょう。ただし、利用者へ強い言葉をぶつけそう、乱暴に接しそうと感じた場合は、いったんその場を離れ、ほかの職員へ応援を求めてください。
Q.心療内科と精神科のどちらへ行けばよいですか?
A.症状や医療機関によって診療範囲が異なります。予約時に現在の症状を伝えて確認するか、かかりつけ医へ相談してください。緊急性がある場合は通常の予約を待たず、救急や緊急相談を利用してください。
Q.趣味や睡眠だけで回復できますか?
A.休養や気分転換が役立つ場合はありますが、それだけで十分とは限りません。眠り続ける、趣味が楽しめない、休んでも改善しないといった場合は、医療機関や相談窓口へつながってください。
まとめ:自分を守ることも介護の安全につながる

介護職として働いていると、利用者を優先するあまり、自分の状態を後回しにしてしまうことがあります。
しかし、不眠、食欲の変化、涙、強い怒りなどが続くなら、一人で耐え続けないでください。
- 安全に働けない状態なら休むことを検討する
- 医療機関へ相談する
- 職場内で改善を求める
- 職場外の相談先へつながる
- 休職・異動・退職を選択肢として考える
自分に水をやることは、利用者を見捨てることではありません。自分と利用者の安全を守るために、必要な助けを求めることです。
